液中観察のための走査プローブ顕微鏡(SPM)の制御法は一般化できておらず、経験が必要な技術である。そのため、まず、SPMを倒立型顕微鏡上に設置し、通常の光学顕微鏡像(蛍光像など)との同位置観察を可能にし、SPMプローブ用ホルダを作製した。次に、CHO-K1細胞に蛍光を結合させたスカベンジャー受容体(CFP-LOX-1)を遺伝子導入した高発現株(m14f)を対象試料とし、本SPMによりLOX-1の分布状態を可視化した。また、リガンドである変性低密度蛋白質のひとつであるアセチル化LDL(DiI-AcLDL)を反応させたm14f細胞の表面形状も観察した。まず、細胞を穏和な条件で固定することにした。1%グルタルアルデヒド固定法を用いると、グルタルアルデヒドの自家蛍光が強く、CFP-LOX-1の蛍光シグナルがノイズ成分に埋没してしまうため、固定法を検討した。その結果、1.75%ホルムアルデヒドと0.15%グルタルアルデヒドでの共固定(4℃、10分)により細胞の形状が良く保存されることがわかった。その後、徐々に室温に戻し液中SPM観察の試料とした。m14f細胞とDiI-AcLDLを添加したm14f細胞とを固定し、光学顕微鏡で両者の蛍光状態を確認しながら、SPMで細胞表層の液中観察を行い、高分解能で両者の表面形状を比較検討することができた。次に、生きている細胞の液中SPM観察法を検討した。バネ定数が低い探針(約0.02N/m)を使用し走査速度を低く設定することで、ある程度の可視化は可能であった。しかしながら、観察に数十分以上必要であること、表面を探針で引きずることがあり、生きている細胞表面の正確なナノレベルでの観察が現状では難しいことも明らかになったが、水平分解能は約50nmであり、蛍光顕微鏡像より高い分解能で可視化できた。
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