本研究は、これまで窒素源として利用の少なかったアンモニアを活用して含窒素化合物を立体選択的に構築することを目指したものである。既に本研究の以前に、アルデヒド、アンモニアおよびアリルボロネート(アリル化剤)の三成分反応(アミノアリル化反応)による効率的なホモアリル第一級アミン合成法の開発に成功している。この反応では、アンモニアガスで飽和させたエタノールを窒素源かつ反応媒体として用いて良好な結果を得ている。 そこで平成17年度は、この反応を更に実用的にすべく取扱い容易なアンモニア水を用いることを検討した。その結果、アニオン性界面活性剤であるドデシルベンゼンスルホン酸(DBSA)やそのナトリウム塩(SDBS)などを添加すると、脂溶性のアルデヒドおよびアリルボロネートと水溶性のアンモニアとの反応が、アンモニア水のみを窒素源かつ反応媒体として効率的に進行することを見出した。DBSAを用いる本手法は、種々の脂肪族、芳香族、ヘテロ芳香族アルデヒドの反応に有効であることも明らかにした。現在、糖などの水溶性基質の反応へと展開している。 さて本三成分反応は、カルボニル化合物とアンモニアから系中調製される不安定なアミナールやN-無置換イミンが中間体となって進行していると考えられる。そこで次に、グリオキシル酸とアンモニアから容易に調製できるアミナールの一種であるヒドロキシグリシンに着目して、アリルボロネートとの反応を検討することとした。その結果、メタノール中、トリエチルアミン存在下でこの反応は円滑に進行し、無保護のアリルグリシンが高収率で得られることを見出した。また、クロチルボロネートなどの種々の置換基を有するアリルボロネートとの反応が、同条件下で円滑に進行し、無保護のα-アミノ酸が直接的に得られることを明らかにした。特に、γ-置換アリルボロネートの反応では、高い立体特異性が得られ、γ-付加体をジアステレオ選択的に得ることができた。また興味深いことに、γ-付加生成物はグリオキシル酸とイミンを形成すると、2-アザ-Cope転位を起こしてα-付加生成物に異性化することを見出した。現在、この転位反応を利用した光学活性第一級アミン合成へと展開している。 一方、反応の不斉触媒化を目指し、アリルボロネートの代わりにアリルスズを用いて三成分反応を検討した。本反応は無触媒では進行しないが、白金触媒により効果的に促進され、高い化学選択性でアミンを与えることが分かった。^1H NMRにより反応を追跡したところ、π-アリル白金中間体の生成が確認され、その関与が示唆された。現在、これらの知見を基に不斉触媒化を検討している。
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