本研究では、溶媒中の酸素分子が蛋白質表面に存在する^<13>C核に対して誘起するコンタクトシフトを利用し、複合体形成に伴う蛋白質の表面の変化を、コンタクトシフトの変化として検出する、新規蛋白質問相互作用界面同定法の開発を試みた。40気圧の酸素加圧下および同圧の窒素加圧下において、ユビキチン(ubi)の^<13>CNMRスペクトルを測定し、両者の差から酸素によるコンタクトシフトを得た。同様にして、ubi-ユビキチン加水分解酵素(YUH)複合体について、コンタクトシフトを測定し、ubiについて得られた結果と比較した。複合体形成に伴いコンタクトシフトが減少した原子は、結晶構造解析により既に明らかにされている結合界面上の、複数の領域に散在した。また、結合界面上の一部の原子については、複合体形成に伴い、コンタクトシフトが増加した。以上の結果は、複合体形成に伴い、酸素原子が、相互作用界面の特定領域に捕捉されたことを示す。これらの領域は、酸素分子を収容することが可能な直径3Å以上の脂溶性の空隙であると考えられる。そこで、これらの領域を構成するアミノ酸残基の側鎖を、よりかさ高いアミノ酸へと置換し、空隙を埋めることにより、ubi-YUH間の親和性を上昇させることができると考え、変異体を作成した。この結果、YUHに対する親和性が野生型と比較して高いubi変異体を見出した。以上より、本研究において、酸素原子により誘起されるコンタクトシフトを解析することにより、蛋白質間相互作用界面に存在する空隙を検出することに成功した。さらに、検出した空隙を埋めることにより、相互作用の親和性を上昇させることに成功した。本研究成果は、薬物候補化合物の、標的蛋白質に対する親和性を上昇させるための新たな方法論として拡張しうると考える。本手法を適用可能な分子量の上限、蛋白質-低分子化合物に対する適用についても検討を行った。
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