本研究は、これまでの研究成果をさらに発展させ、疾患モデル動物の生体内での機能の違いを如何に画像解析できるかに着目して研究を計画した。生体内細胞レベルでの機能の違いを画像解析するには、現段階では造影剤に種々機能を持たせ、その違いを画像解析することで達成できる。 そこで、擬似試料としてアスコルビン酸含有リポソームを作成し、性質の異なる造影剤として膜透過性あるいは、非膜透過性造影剤の窒素核を14N、15Nで標識し、そのESR共鳴点を選択的に励起し、水素核でのオーバーハウザー効果を検出した。その結果、14N、15Nで標識した造影剤を区別して画像化でき、さらに膜透過性を持つ造影剤でのみ、経時的に画像強度が減少した。これは、膜透過性の造影剤がリポソーム内のアスコルビン酸と反応し、その機能を消失する過程を追跡できたことを意味する。すなわち、リポソーム膜内・外を区別して画像解析することに成功した。また造影剤であるニトロキシルラジカルの還元体であるヒドロキシルアミン体を合成し、14N、15Nで標識したところ、擬似試料中で酸化・還元の両反応を追跡できることを示した。さらに正常動物を用いて本手法が有用であることを示し報告した(PNAS)。 また、さらなる高感度画像化を図るために、ニトロキシルラジカルの水素核を重水素化したところ、約30%の画像強度の高感度化に成功した。これは、水素と重水素の磁気回転比が約6倍であることとも一致し、Oxo-TEMPOの重水素体では他のものに比べ約3倍の高感度化ができた。 一方、酸化ストレス疾患モデルとして、ニトロソアミン誘発肝癌モデルラットを作成し、酸化ストレスとフリーラジカルの関与を検討した。その結果、酸化ストレスの指標である脂質過酸化を生じる前に、ラット肝細胞内ミクロソーム中で炭素中心ラジカルが生成していることをIn vivo ESR法、In vivo spin trapping法で明らかにした。さらにスピントラップ剤、スピンプローブ剤を投与することで、その後の脂質過酸化を抑制することを明らかにした(Free Radic.Biol.Med.)。 以上の結果から、細胞内外移行性などの機能を持つ造影剤を同時分離画像化できることが可能となり、今後部位特異性を持つスピンプローブ剤を合成し酸化ストレス性疾患モデル動物に適用することで、疾患の成因・進展に関与するフリーラジカル反応を解析できると考えられる。
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