水中エマルション溶媒拡散法により調製したナノスフェアの平均粒子径は約250nm、ゼータ電位は約-20mVであった。唯一、分子内にアミノ基を有するキトサンで表面修飾したナノスフェアは、ゼータ電位が正の値(5.9mV)となった。ナノスフェアの脳分布割合は投与経路に依存し、投与されたナノスフェアが直接脳を通過する頸動脈投与の方が、頸静脈投与に比べ脳分布割合は高くなった。投与経路によらず、Tween80で表面修飾したナノスフェアは脳に高い割合で分布し、粒子の血中滞留性も他の粒子に比べ優れていた。また、その分布量は投与量依存的であった。一方、キトサン修飾ナノスフェアは、脳からの消失速度が遅く、長期間にわたり脳組織に分布しうることが明らかとなった。また、投与量を変化させても脳への分布量が変化しなかったこと、血中からの消失が速いことから、キトサン修飾ナノスフェアは脳血管に一定量が強く吸着し、脳を通過した粒子は速やかに細網内皮系組織などに取り込まれたと考えられる。未修飾及びプルロニックF-68で修飾したナノスフェアは、脳への分布割合が低く、また脳及び血中からの消失速度が速いことから、脳血管との相互作用は弱いことが明らかとなった。血中成分との相互作用では、正のゼータ電位を有するキトサン修飾ナノスフェアには負に荷電したタンパクの吸着が認められた。しかしながら、同じ負電荷を有する他の表面修飾ナノスフェアであっても、表面に吸着するタンパクは粒子の電荷だけでなく表面物質の特性にも依存しており、粒子径など様々な要因が脳内分布割合や血中滞留性などに影響を及ぼしていると考えられる。
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