研究概要 |
生体内分解性・生体適合性の高分子であるポリ乳酸グリコール酸(PLGA)からなるナノスフェアの表面をキトサンやや界面活性剤(Tween80,Tween20)で修飾することにより、脳への粒子の分布を向上させることができた。この向上には粒子表面に吸着するタンパクの関与が考えられたため、未修飾ナノスフェアとTween80で修飾したナノスフェア間で吸着するタンパクを二次元電気泳動法により比較した。その結果、一部のバンドで吸着量の差は認められたものの、そのほとんどがアルブミン由来のバンドであり、脳への粒子の移行へのタンパクの寄与はほとんどないことが明らかとなった。 正常ヒト脳毛細血管内皮細胞培養系を用いて、in vitroでのナノスフェアの内皮細胞への取り込み実験を実施した。その結果、未修飾ナノスフェアでは細胞内にほとんど取り込まれておらず、細胞表面への吸着もほとんど認められなかった。また、脳への粒子の移行量が向上したキトサンで表面修飾したナノスフェアでは、細胞表面への吸着量は多くなるものの、細胞内へ取り込まれている粒子はわずかであった。これらに対し、Tween80で修飾した粒子は、細胞内に粒子が取り込まれていた。脳血管内皮細胞ではエンドサイトーシスの頻度が少ないことから、キトサン修飾ナノスフェアでは細胞膜には吸着するものの、内部までは取り込まれない。一方Tween80修飾ナノスフェアは粒子表面のTweenが細胞膜の流動性を向上させることにより、細胞膜を透過して粒子が細胞内に移行したと考えられる。また、これらの結果は、in vivoにおける脳血管近傍での粒子の観察結果とよく一致していた。
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