研究概要 |
脳への薬物の効率的な送達システムの構築を目的とし、薬物担体として生体内分解性・生体適合性の高分子であるポリ乳酸グリコール酸(PLGA)からなるナノスフェアを用い、この表面を修飾することにより、脳指向性の製剤設計を試みた。これまでの検討で、キトサンとTween80で表面修飾することにより脳への分布量が向上すること、さらにはこれらの粒子の分布機構が異なることを明らかにしてきた。今回抗ガン剤を内封した表面修飾ナノスフェアを設計し、脳血管内皮正常細胞と癌細胞に対しその有用性を検討した。正常細胞によるナノスフェアの取り込みに関しては、Tween80修飾ナノスフェアは細胞内まで粒子が取り込まれていたが、キトサン修飾ナノスフェアでは細胞膜表面に吸着しているだけであった。癌細胞では、正常細胞に比べ貪食作用の頻度が高いため、キトサン修飾ナノスフェアでも細胞内への取り込みが確認された。今回は抗ガン剤として塩酸ドキソルビシンを用いた。PLGAナノスフェア内への薬物の封入量はキトサンによる表面修飾により著しく低下した。これはキトサン修飾時に、キトサン溶液の溶媒として酸性の酢酸緩衝液を用いる。ドキソルビシンは塩基性薬物であるため、修飾剤溶液中での溶解度が上昇し、ナノスフェア内から漏出してしまったためと考えられた。また、ナノスフェアからのドキソルビシンの溶出試験を実施したところ、初期の2,3時間で内封されている薬物の約50%の薬物が初期バースト的に放出された後、1週間以上にわたり徐々に放出された。細胞に対する抗腫瘍効果は封入率の低かったキトサン修飾ナノスフェアでは認められなかった。これは、粒子を大量に細胞に対して投与しても、取り込みが飽和し、有効な濃度の薬物を細胞内に送達できなかったためと考えられた。一方、Tween80修飾ナノスフェアでは未修飾のナノスフェアに比べ高い抗腫瘍効果を示した。
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