糖尿病の患者数は、年々増加しており、日本国内の糖尿病患者数は740万人を越えるといわれている。糖尿病の患者には、インスリン注射が必須の治療法である1型糖尿病と、有機薬剤による薬物療法、運動療法、食事療法が主な治療法である2型糖尿病の二種類に大別され、糖尿病治療薬の開発、そのメカニズムの解明に凌ぎが削られている。そのような背景の中、亜鉛やバナジウムを始めとする金属元素および金属錯体が、抗糖尿病作用を有することが明らかとなり、新たな治療薬として注目を集めている。しかしながら、これら金属元素の抗糖尿病作用の詳細なメカニズムに関しては、十分な研究が行われてこなかったが、本研究において、これらの金属元素がα-グルコシダーゼ阻害効果を有することを明らかにすることができた。特に、我々が以前に糖尿病モデル動物を用いた実験で、血糖降下作用を示した、6-メチルピコリン酸メチルアミド-亜鉛錯体を用い、α-グルコシダーゼ阻害効果をin vitro実験系で評価したところ、強い阻害効果を有し、既存のα-グルコシダーゼ阻害薬であるアガルボースの80倍以上の効果を有することが分かった。この研究に基づき、抗糖尿病作用を有することが報告されている金属元素のα-グルコシダーゼ阻害効果をスクリーニングすると、コバルト<鉄≒アガルボース<バナジウム<亜鉛<銅の順に強くなり、銅が最も強い効果を示すことが明らかとなった。本研究の結果より、銅・亜鉛・バナジウムの抗糖尿病効果には、α-グルコシダーゼ阻害効果が強く関与しており、糖尿病治療薬となりうる可能性が示唆された。
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