前年度の実験結果から、酵母由来のα-グルコシダーゼを用いたin vitro実験系において、銅(II)、亜鉛(II)およびバナジウム(IV)元素にα-グルコシダーゼ阻害効果があり、その効果は金属イオンおよび錯体により異なることが分かった。本年度の実験では、ラット小腸由来のα-グルコシダーゼを使用し、その阻害効果を検討したところ、昨年度の結果と同様、銅(II)、亜鉛(II)およびバナジウム(IV)元素に強い阻害効果が認められた。そこで、その阻害活性の大小とIrving-Williamsの安定度序列との間の相関性を検討すると、金属の安定度定数と阻害活性の間には相関性が認められた。in vitro実験において特に活性の高かった、銅(II)イオン、Cu(pa)_2錯体およびCu(6mpa)_2錯体を健常マウスを用いたin vivo実験に供したところ、用量依存的にα-グルコシダーゼを阻害することが分かり、その効果は現在医薬品として使用されているアカルボースと同程度であった。1型糖尿病モデル動物であるSTZマウスを用いた同様の検討でも、これらの化合物は、α-グルコシダーゼを阻害することが分かった。さらに、速度論的解析(Lineweaver Burk-plot)から、銅(II)イオンおよび銅(II)錯体は、酵母およびラット小腸由来のα-グルコシダーゼを、非拮抗的に阻害することが明らかとなった。酵母由来α-グルコシダーゼを用いたCDスペクトルの観察から、Cu(II)イオンおよびCu(II)錯体はα-グルコシダーゼの立体構造を変化させることが分かり、また、Cu(II)イオンとCu(II)錯体では酵素に及ぼす構造変化が異なることを明らかにした。 以上の結果より、銅関連化合物が非常に強いα-グルコシダーゼ阻害活性を有することを明らかにすることができ、より詳細な安全性の検討を行った上で、今後新たな無機医薬品としての開発が期待される。
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