本研究の目的は、線虫C.elegansを用いた遺伝学的解析およびPAF-2ノックアウト動物を駆使して、エイコサペンタエン酸のような高度不飽和脂肪酸を含むリン脂質が、上皮細胞のシート形成にどのような役割を果たしているかを分子レベルで明らかにすることである。本年度は、PAF-2欠損変異体の表現型である上皮細胞の異常と高度不飽和脂肪酸の関連を明らかにするため、PAF-2と高度不飽和脂肪酸合成酵素群の遺伝学的相互作用を検討した(線虫)。また、PAF-2のノックアウトマウスを樹立し、その表現型を解析した。 1)線虫における高度不飽和脂肪酸合成酵素の変異体では高度不飽和脂肪酸が減少しており、数%の胚致死性が観察される。また、PAF-2の発現を約30%まで低下させたトランスジェニック線虫では顕著な表現型を示さない。高度不飽和脂肪酸とPAF-2の関連を調べるため、これらの変異体を交配させたところ、胚致死などの表現型が著しく増強され、約半数の個体で異常が生じることが明らかになった。上皮細胞特異的にPAF-2の発現を低下させたトランスジェニック線虫においても同様の遺伝学的相互作用が観察された。すなわち、PAF-2が上皮細胞において高度不飽和脂肪酸の代謝と密接に関与することが遺伝学的に示された。 2)PAF-2は腎臓、肝臓、腸管などの上皮細胞(極性細胞)に特に強く発現しているが、PAF-2ノックアウトマウスは通常の飼育条件下では顕著な表現型を示さなかった。そこで、LPSを用いて賢臓の上皮細胞にストレスを与えたところ、PAF-2ノックアウトマウスでは腎障害のパラメータ(BUN値)が有意に上昇し、腎障害が増悪化することがわかった。また、肝障害のパラメータ(GOT)も有意に上昇していた。現在、マウスにおける高度不飽和脂肪酸欠乏モデルも構築しており、LPSによる障害と上皮細胞、高度不飽和脂肪酸の関連について検討している。
|