本研究では、ナメクジ神経系における遺伝子強制発現系、および遺伝子発現抑制系の確立を目的としている。これに関連して、本年度では主として「ナメクジ一酸化窒素合成酵素遺伝子(NOS)構造の解析」を行った。代表者は、ナメクジ一酸化窒素合成酵素には2つの遺伝子(NOSp、NOSf)が存在することを見出した。このうちのひとつ(NOSp)は、前脳葉特異的なmRNAの発現を示し、この遺伝子のプロモーターを解析することで、前脳葉特異的発現ベクターを構築することができると考えた。そこで、転写開始点上流の数100bpの塩基配列を解析したところ、C/EBPやCREなど誘導性の転写因子結合配列を複数確認できた。しかし、これまでのところ、この遺伝子の転写を上昇させることができるような条件は見出せていない。嗅覚情報処理に重要な役割を果たすとされる前脳葉で、特異的な発現を起こさせるようなシスエレメントが明らかになれば、これを含む発現ベクターを用いることで、ナメクジ脳を用いたin vitro、in vivoでの実験において強力なツールとなることが期待される。また、同時にナメクジNOSfの全ゲノム構造を解析したところ、ヒトnNOS遺伝子に極めて類似したエキソン-イントロン構造を持つことが明らかになった。このことから、NOS遺伝子(すくなくともNOSf遺伝子)に対して強い進化的な保存的圧力が働いていること、およびNOS自体が持つ機能の重要性も示唆された。
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