統合失調症は、生涯有病率約1%という極めて発症頻度の高い精神病である。一方、注意欠損/多動性障害は、年齢あるいは発達に不釣合いな注意力、衝動性および多動性を特徴とする行動障害を呈する疾患である。これら疾患は学童期から青年期に発病し、社会活動や就学に支障をきたすことから大きな社会的な問題となっている。臨床においてドパミン作動性神経に作用する薬剤が上記2つの疾患の症状を軽減することから、その発現にはドパミン作動性神経系が関与していることが示唆されている。我々は、分泌型セリンプロテアーゼである組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)およびプラスミンがドパミン遊離を制御しており、プラスミンはドパミン遊離に対して促進的に作用していることを昨年度に報告した。本研究では、tPAが結合する受容体として知られているprotease-activated receptor-1(PAR-1)に着目し、tPA1プラスミンシグナルのドパミン遊離調節機構の解明を試みた。免疫染色法によりPAR-1の発現を調べたところ、ドパミン作動性神経系の起始核である腹側被蓋野および終末部である側坐核にPAR-1陽性細胞が観察された。また、[^<35>S]GTPγS結合実験を行った結果、側坐核を含む線条体にはプラスミンによって活性化されるPAR-1が発現していることを確認した。さらに、in vivo dialysis法を用いて高カリウム刺激により誘発される線条体のドパミン遊離に対するPAR-1シグナルの作用について調べた。PAR-1アゴニストペプチドは高カリウムにより誘発されるドパミン遊離を増強し、逆にPAR-1アンタゴニストペプチドは高カリウム刺激により誘発されるドパミン遊離を抑制した。以上の結果より、tPA/プラスミンを介したドパミン遊離調節機構にPAR-1が関与していることが示唆された。
|