我々の研究グループでは、以前より軟骨細胞の分化段階を制御する因子の探索を行っているが、近年中枢神経系において興奮性情報伝達物質として機能するGluが、これらの細胞において情報伝達物質として機能することを世界に先駆けて報告した。我々は、Gluシグナリング機構に関連する因子が軟骨組織においても存在するのではないかとの仮説に基づき、中枢神経系のNMDA受容体の機能制御を行うD-Serの軟骨細胞分化に与える影響について解析を始めた。現在までのところ、培養軟骨細胞および軟骨組織切片を用いて、軟骨細胞におけるSRの発現を遺伝子および蛋白質レベルで認めており、さらに肋軟骨由来初代培養軟骨細胞および中足骨を用いた軟骨器官培養系において、D-Ser添加により軟骨細胞の分化段階が抑制される事実を明らかにした。また、前軟骨細胞株であるATDC5細胞にSRを強制的に安定発現させた結果、軟骨細胞分化の指標であるアルシアンブルーの染色性が有意に抑制された。さらに、軟骨細胞分化過程における重要な転写因子の一つであるSOX9の転写活性能については、野生型SRの56番目のリジンをグリシンに変異させD-Ser合成活性を欠失させたSRは、著明な変化を与えないのに対して、野生型SRは、SOX9の転写活性能を有意に抑制させることを解明した。これらの結果より、SRの代謝産物であるD-Serが軟骨細胞の分化過程を制御する可能性は充分に高いことが予想され、更なる研究計画の効率的実施により、D-Serの軟骨細胞分化における生理学的役割の解明、およびその機能制御を通じた骨折やリウマチ性疾患の新規治療理論構築が可能であると思われる。
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