牛胎仔血清のエーテル抽出物中より発見したセロフェンド酸について、低濃度のグルタミン酸の長時間投与によるアポトーシスに対する保護作用機序について検討した。セロフェンド酸はグルタミン酸により誘発されるミトコンドリア膜の脱分極を抑制した。また、ミトコンドリア膜の脱分極に引き続き起こるカスパーゼ3の活性化も抑制したが、カスパーゼ3の酵素活性を抑制するには神経保護作用を発現する濃度よりも高濃度が必要であった。したがって、セロフェンド酸はグルタミン酸により誘発されるミトコンドリア膜の脱分極を抑制することにより、カスパーゼの活性化を抑制し、アポトーシスに対して保護作用を発現したことが示唆される。 また、セロフェンド酸が培養アストロサイトにおいて細胞内cAMP濃度上昇による形態変化を促進することを見いだしているので、その作用機序について検討した。cAMPの作用点と考えられるProtein Kinase A(PKA)への作用を調べる目的でPKAの阻害薬であるKT5720の作用を検討した。その結果、セロフェンド酸による星状化促進作用はKT5720により部分的に抑制され、その作用機序の一部にPKAが関与していることが明らかとなった。また、細胞骨格の制御に重要なRhoファミリータンパクの1つであるROCKの阻害薬であるY-27632はアストロサイトに星状化を引き起こす。セロフェンド酸はY-27632による星状化には影響を与えなかった。これらの結果より、アストロサイトにおけるセロフェンド酸の作用部位はPKAの活性化の調節に関与していることが示唆された。
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