白色脂肪組織の過形成である肥満症が、種々の生活習慣病の原因となることが明らかにされつつあり、白色脂肪組織形成過程の分子メカニズムの解明が期待されている。研究代表者は、胎児の白色脂肪組織形成過程において、FGF10が前駆白色脂肪細胞の分化と増殖を正に制御していることを明らかにした。一方、白色脂肪組織形成においては、成熟脂肪細胞のサイズの増加も重要である。そこで、当初FGF10の受容体であるFGF受容体2に着目し、成熟脂肪細胞特異的FGF受容体2遺伝子欠損マウスの解析を行い、生後の脂肪組織形成におけるFGF受容体2シグナリングの役割について検討を進めた。その結果、平成17年度において、生後の腸間膜白色脂肪組織形成過程において、FGF受容体2が重要な役割を果すことを明らかにした。本年度では、その役割について詳細な検討を行った。脂肪組織において、FGF受容体2は、主に成熟脂肪細胞に発現していた。また、その成熟脂肪細胞において発現するFGF受容体2は、FGF10との親和性が低いアイソフォームであり、他のFGFリガンドにより、成熟脂肪細胞の肥大化が進むことを明らかにした。さらに成熟脂肪細胞特異的FGF受容体2遣伝子欠損マウスにおいて観察された腸間膜白色脂肪組織の減少が、細胞数の減少ではなく個々の脂肪細胞のサイズの減少によることを明らかにした。さらに、腸間膜白色脂肪組織における脂肪細胞肥大化に関する因子の発現に付いて検討したところ、特にエネルギー消費に関わることが期待されるUCP2の発現が上昇していることを見出した。以上の結果より、腸間膜白色脂肪組織の成熟脂肪細胞において、FGF受容体2を介するシグナリングは、UCP2の発現抑制を介して、エネルギー消費を抑制することが明らかにされた。本研究で得られた成果は、メタボリックシンドロームの発症基盤である内蔵脂肪肥満の発症メカニズムや、その治療法の開発に有益な知見を提供できるものと期待される。
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