本年度は、発現クローニング法を利用してERK-MAPキナーゼの細胞内局在に影響を及ぼすタンパク質の同定を中心にして解析を進めた。 具体的には、HGFで刺激したMDCK細胞からmRNAを調製し、それをもとにして発現プラスミドcDNAライブラリーを作成した。次に、このライブラリーを分画してそれぞれをGFP-ERK2を恒常的に発現させたMDCK細胞株に導入し、遺伝子を発現させた後、GFP-ERK2の細胞内局在を観察することによって目的遺伝子の絞り込み、同定を行った。その結果、GFP-ERK2の細胞内局在に影響を及ぼす分子を見出した。本分子はN末端側にSH3ドメイン、またC末端側に3つのankyrin repeatを有する分子量約26kDaの分子(p26)であった。p26をMDCK細胞に過剰発現させると、HGF刺激によるERK-MAPキナーゼの核内移行(保持)が抑制されること、一方、siRNAを導入することによってその発現を抑制するとERK-MAPキナーゼの核内移行(保持)が亢進されることを確認した。 なお、免疫共沈法、およびGST-pull down法を用いた解析結果より、p26とERK-MAPキナーゼの直接的な結合は認められなかった。そこで次に、p26と結合する分子をGST-pull down法によって探索したところ、分子量約62、66、および120kDaのタンパク質(それぞれp62、p66、およびp120)がp26と結合することを見出した。 以上の結果より、p26はp62、p66、あるいはp120との結合を介してERK-MAPキナーゼの細胞内局在を調節している可能性が示唆された。
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