研究概要 |
Myeloid elf-1 like factor (MEF)は663アミノ酸からなる転写因子で,85アミノ酸からなるDNA結合部位(ETSドメイン)をもつETS転写因子の1つである,MEFはX染色体上に存在し,浸潤・転移や血管新生を抑制する癌抑制遺伝子であり,種々の癌細胞株において発現が顕著に抑制されていることが報告されている.本研究では,第1に,癌細胞株においてのみ明らかにされていたMEFの発現抑制が,ヒト癌組織においても見られるか否かを検討した,その結果,MEFが様々な部位の癌組織で顕著に発現抑制を受けていたことから,MEFがヒト組織においても癌抑制遺伝子として働いていることを示唆した.第2に,癌抑制遺伝子MEFの発現制御機構を明らかにするために,ヒトMEF遺伝子の転写開始部位より上流2kbpをクローニングし,MEFの発現調節機構について詳細な検討を行った.その結果,転写開始部位付近の(-203/-12)の領域がMEFの転写活性化に重要であることがわかった.さらに本領域に結合する転写因子の探索をTFSEARCHやTESSを用いて解析したところ,本領域はGC含量が高く,TATA boxを欠いていたが,転写因子Sp1の結合部位が4つ存在することが明らかとなった.そこで,MEFの発現調節にSp1が関与しているか否かを調べるために,Sp1の過剰発現および機能阻害実験を行ったところ,MEFはSp1により制御されていることが示唆された。さらに,どのSp1結合部位がMEFの発現制御に重要であるか否かを検討するため,Sp1結合部位に様々な組み合わせで点変異を導入し,プロモーターアッセイを行ったところ,MEFの発現調節には4つのSp1結合部位のうち,2つが重要であることが示唆された.この2つのSp1結合部位に実際にSp1が結合するか否かを調べるためにゲルシフトアッセイを行った結果,Sp1はこの領域に直接結合していることがわかった.Sp1に特異的なsiRNAやSp1のDNAへの結合を阻害する試薬Mithramycin Aを用いてSp1の機能阻害実験を行ったところ,Sp1の機能阻害下で内因性MEFの発現は顕著に抑えられた。第3に,MEFの発現制御に重要なSp1結合部位に癌細胞特異的なメチル化の亢進が見られるか否かをbisulfite-PCR sequencing法を用いて検討したところ,正常細胞であるHEK293,16HBE14o-細胞と,癌細胞であるA549,Caco-2細胞間でMEFの発現制御に重要な領域におけるDNAメチル化の差異は認められなかった.以上,本研究により,Sp1が癌抑制遺伝子MEFの基本転写レベルを保つ上で重要な役割を果たしていること,およびその制御はメチル化による発現抑制を受けない制御機構であることが示唆された.
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