本研究では、高次元に折りたたまれた染色体構造を必要に応じて弛緩・凝縮させるメカニズムに関わるクロマチンリモデリング因子の同定と機能解析を目的にして研究を遂行している。 まず、この因子の中で、ヘリカーゼモチーフを持つ幾つかのタンパク質に注目した。出芽酵母のYfr038wタンパク質は機能未知の新規遺伝子産物であることから、その遺伝子破壊株を作製し、野生株と比較したが、明確な表現型は得られなかった。しかし、マイクロアレイによる網羅的な遺伝子発現変動を比較した結果、遺伝子破壊株ではリジン生合成遺伝子群の発現が低下していた。アミノ酸合成関連遺伝子の転写制御へのクロマチン構造変換因子の関与については、未だに多くの点で未知なため、今後もこのタンパク質が関与する転写制御遺伝子を同定する予定である。さらに、クロマチン構造変換には複数のタンパク質が複合体を形成して機能する必要があると考えられるため、Yfr038wタンパク質との複合体形成タンパク質を同定して、このタンパク質の発現制御ネットワークを解明する予定である。 次に、出芽酵母Ino80タンパク質に注目した。今回の我々の解析から、この遺伝子の欠損細胞では、新たにcamptothecinのようなDNA topoisomerase阻害剤に対しても高感受性を示すことを明らかにした。この結果は、このタンパク質がDNA複製でのクロマチン構造変換に関与する事を示唆することから、このタンパク質の機能をその方面からも詳細に解析する。さらに、この遺伝子のヒト相同遺伝子KIAA1259についても、その機能を解析している。まず、KIAA1259遺伝子を3分割して、大腸菌で発現させた。この中で、C末タンパク質についてDNA結合活性があることを初めて明らかにした。現在、この遺伝子の過剰発現細胞や発現抑制細胞での表現型を解析している。
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