研究概要 |
神経細胞のシナプス部における,プレシナプス部とポストシナプス部の活動のタイミングによるシナプス伝達効率の調節機構を検討した. 本年度は,まずタイミングに依存したシナプス伝達の調節様式の検討を行った.海馬領域を含むスライス標本において,海馬CA1野の錐体細胞よりWhole-cell patch-clamp法を用いてシナプス電位を測定した.条件刺激は,プレシナプス部の低頻度刺激とポストシナプス部の通電による脱分極を組合せた.プレシナプス部とポストシナプス部の活動のタイミングを変えることによりシナプス伝達による結合性に可塑的な変化が生じることを確認した.すなわち,プレシナプス部の活動性がポストシナプス部よりも先行した場合にはシナプス伝達効率が持続的に高くなり,逆のタイミングでポストシナプス部がプレシナプス部よりも先行した場合には効率が持続的に低くなることが明らかとなった.このプレシナプス-ポストシナプスの活動タイミングには,時間差に依存した調節様式が見られ,10ミリ秒をピークとした関係性が見られた. 生体より作製したスライス標本にはシナプス伝達に対する複数の調節系が入力しており,単一シナプスのみの現象を観察することは困難である.そこで,マイクロパターニングの技術を利用し,任意のデザインのシナプス形成を試みた.細胞の接着性を制御できる機能的な細胞培養表面を用いて,細胞接着から突起伸展の数・方向・タイミングの制御を行った.PC12細胞を突起伸展に関する神経細胞のモデルとして用いて,細胞接着性と突起伸展の制御を試みたところ,NGF刺激を加えることにより細胞接着後の任意のタイミングで突起伸展を開始させ,その突起伸展数・速度・方向の制御が可能であることが示唆された. 今後はこの系を用いて,任意のデザインの神経回路を形成し,単一シナプスでの伝達効率の調節機構について検討を行う予定である.
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