私共の研究グループでは、Rho/Rhotekinシグナルによって、セプチンフィラメントの構造が制御されていることを報告している。しかしながら、種々の実験の結果から、セプチンとRhotekinの結合は、間接的であると考えられた。そこで、セプチンとRhotekinの結合を介在する分子を同定することを目指し、Rhotekin結合タンパク質を酵母Two-hybrid法により検索したところ、ビネキシンを同定した。ビネキシンは、大きく分けて高分子量型のαと低分子量型のβという2つのアイソフォームがあり、繊維芽細胞において細胞接着に関与することが知られているが、神経系細胞での役割はわかっていない。そこで、神経系におけるビネキシンの性状・機能解析を行った。ラット脳の発達に伴うビネキシンの発現変化をウェスタンブロットで解析したところ、胎生期にはビネキシンβが多く発現しており、生後発達に伴ってビネキシンαが顕著に増加することがわかった。蛍光抗体法により、初代培養ラット海馬神経細胞におけるビネキシンの局在を検討したところ、成熟した神経細胞では、シナプスのマーカーであるシナプトフィシンと一致していた。ビネキシンは、ERKによってリン酸化されることが知られているが、その生理学的意義についてはよくわかっていない。私共は、抗リン酸化ビネキシン抗体を作製し、蛍光抗体法によって解析したところ、未成熟神経細胞に比べて成熟ニューロンでは蛍光強度が増加し、シナプスに局在することがわかった。このリン酸化は、MEK阻害剤であるPD98059によって抑制されたことから、ERKを介したリン酸化であると考えられた。さらに、電子顕微鏡観察から、リン酸化ビネキシンは、後シナプスに選択的に局在していることも明らかとなった。これらのことから、ビネキシンは神経細胞におけるシナプス形成や維持に何らかの役割を果たしていると考えられた。
|