本研究では、細胞分化に関与する核内受容体の一つであるレチノイドX受容体RXRアゴニスト活性を有する複素環化合物の開発を主に展開した。 新規RXRアゴニストを開発するにあたり、その構造的バリエーションの少なさ、脂溶性の高さ、α・β・γと3つあるサブタイプに対する特異的なリガンドが報告されていないことに着目し、これらを解決課題とした。 一般的なRXRアゴニストは、テトラメチルテトラヒドロナフチル環からなる疎水性部位と芳香族カルボン酸等の極性部位、それとこれら二つの部位を連結するリンカー部分から構成される。そこで、リンカー部分に脂溶性低下の期待できるスルホンアミド基の導入、テトラメチルテトラヒドロナフチル環をイソプロピル基と極性のあるアルコキシ基を有する芳香環への変換、さらに芳香族カルボン酸のカルボキシル基をアクリル酸への変換という3つのアプローチから分子デザインした。 合成化合物のRXRリガンド活性については、COS-1細胞を用いたreporter gene assayを用いて評価した。その結果、アルコキシル基の導入を図った化合物について、低脂溶性でありながら既存の高活性アゴニストに匹敵するRXRアゴニスト活性およびRXRα選択性が認められた。なお、サブタイプ選択的RXRアゴニストの報告例がないことから、本化合物は世界初のRXRサブタイプ選択的アゴニストと言える。またアクリル酸を導入した化合物にRXRアゴニスト作用のみならず、HDAC阻害作用を有する化合物も見出した。以上の化合物については、特許出願(特願2007-48059)しており、現在文献化中である。 RXRアゴニストは、タモキシフェン耐性乳がんやタキソール耐性がん、II型糖尿病の治療の他、がん化学予防、発毛作用についても研究されている。したがって、本研究で開発されたRXRアゴニストは、これらへの応用が可能と考えている。
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