研究概要 |
申請者はキノン化合物の中でも強い生体への有害作用が報告されている9,10-phenanthrenequinone (PQ)に注目し、PQの高感度な測定法の開発とそれによる環境汚染評価を行った。 1.申請者はこれまでに、PQが酢酸アンモニウム存在下ベンズアルデヒドと反応することで、強蛍光性化合物へと変換されることを見出し、この反応を利用する蛍光誘導体化HPLC-定量法を開発してきた。確立した方法を長崎市街地で一年間にわたり捕集した大気粉じん試料へと適用し、その大気中濃度及び動態の解析を行った。その結果、長崎市街地における年平均PQ濃度は0.128ng/m^3であり、BostonやLos Angelesの都市部とほぼ同程度の値であった。さらに、その濃度は春から夏にかけてよりも秋から冬にかけて高い値を示すことが明らかとなった。また、PQ濃度とphenanthrene濃度との間に正の相関がみられたことから、大気中でのPQの生成にphenanthreneが関与しているということが示唆された。 2.より高感度かつ選択的なPQの蛍光誘導体化定量法を開発するために、約20種類の芳香族アルデヒドについてPQとの反応生成物の蛍光特性を調査した。その結果、4ホルミル安息香酸メチルによる誘導体が、ベンズアルデヒドによる誘導体と比べて長波長領域で強い蛍光を示すことを見出した。そこで、4-ホルミル安息香酸メチルを誘導体化試薬として用いるPQのHPLC-蛍光定量法を開発し、大気粉じん試料へと適用した。その結果、ベンズアルデヒドを用いる方法よりもPQを約4倍高感度に検出でき、さらに大気粉じん中のマトリックスに由来する妨害を受けにくい定量法を開発することができた。
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