本研究課題では、亜鉛応答性転写因子MTF-1をドミナントネガティブ体(N末端欠失体;MTFΔC)発現により阻害、もしくはsiRNAによりノックダウンした際の表現系からMTF-1の機能、特に細胞機能調節機構へのMTF-1への関与を明らかにすることを目的としている。本年度は、初代培養肝細胞のEGF依存的増殖に注目した研究を行い、以下の成果を得た。初代培養肝細胞は細胞接着後から無血清培養することでEGF依存的増殖が観察可能であるので、この条件を用いた。DNA合成(^3H-チミジン取り込み)を指標に細胞増殖を観察したところ、EGF添加36〜48時間で最も細胞増殖が盛んであった。これに対し、MTFΔC発現によりMTF-1を阻害すると細胞増殖のピークが48〜60時間へと遅延した。S期細胞の割合をブロモデオキシウリジンの取り込みによりを調べたところ、EGF添加36時間後においてコントロール群で50%程度であったのに対し、MTFΔC発現群では10%と割合は低下していた。次に、遅延の原因をとして、EGF依存的細胞増殖において必須のシグナル伝達系、MEK/ERKカスケードの活性化にMTF-1が関与する可能性を考えた。活性型ERK量をWestern blotにより両群で比較したところ、MTFΔC発現群で活性型ERK量が減少していた。siRNAによってMTF-1をノックダウンした場合においても、EGF依存的ERK活性化は阻害された。つまり、MTF-1がMEK/ERKカスケードを修飾することが明らかとなった。今後、今回明らかとなったMTF-1のMEK/ERKカスケード修飾作用を手がかりに、別の細胞機能調節作用を探る予定である。また、MTF-1活性と細胞内亜鉛量、亜鉛輸送・貯蔵タンパク質量、さらにこれらの細胞内分布との関係を調べる予定である。
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