昨年度は、EGF依存的肝細胞増殖においてERK1/2活性化にMTF-1が関与することを亜鉛応答性転写因子MTF-1の機能をドミナントネガティブ体(N末端欠失体;MTFΔC)発現により阻害、もしくはsiRNAによりノックダウンすることによって明らかとした。今年度は、本作用の詳細を明らかにするため、ERK1/2の上流因子であるMEK1/2の活性化がMTF-1により影響を受けるか調べ、MEK1/2リン酸化がMTF-1活性阻害により低下することを見出した。したがって、MTF-1の作用点はより上流であることが明らかとなった。また、MTF-1活性を修飾する因子を検索する目的で、亜鉛トランスポーターおよび細胞内亜鉛量とMTF-1活性との関係を調べた。マウス初代培養肝細胞に種々亜鉛トランスポーターのsiRNAを導入して、これらトランスポーターの発現をノックダウンし、細胞内亜鉛量およびMTF-1活性への影響を調べた。細胞内亜鉛量は亜鉛蛍光プローブ、Zinquin ethyl esterにより評価した。MTF-1活性はレポータープラスミドをアデノウイルスベクターとして導入して測定した。siRNAによりノックダウンする亜鉛トランスポーターは肝細胞で比較的高発現している、亜鉛取込トランスポーターZnT-1、5および7、亜鉛排出トランスポーターとしてZIP1、2、4および7とした。その結果、細胞内亜鉛量の増加が確認されたZnT-1ノックダウン細胞でのみ、MTF-1活性の上昇が認められた。細胞内局所での亜鉛濃度の変化によってMTF-1活性が修飾される可能性を考えていたが、そのような現象を捉えることは出来なかった。
|