本研究では、CYP2C9とCYP2C19の発現調節機構を比較検討することにより、CYP2C分子種の発現量に個人差を生じる要因となる因子を同定し、その調節因子とCYP2C分子種発現量の個人差との関連性について明らかにすることを目的とした。平成17年度は、CYP2C9およびCYP2C19遺伝子の転写調節におけるHNF4αの関与について検討した。二つの遺伝子の5'上流-2kbpを解析したところ、HNF4α結合サイトであるdirect repeat 1(DR1)が2箇所推定された。推定された2つのDR1の配列は両遺伝子間で完全に一致していた。この二つのDR1に対するHNF4αの結合能についてEMSAにより検討をおこなったところ、どちらのDR1に対してもHNF4αが結合することが示された。次に、FLC7細胞にHNF4αを共発現させ、CYP2C9およびCYP2C19promoterの転写活性に対する影響を検討した。その結果、CYP2C9ではHNF4αにより転写活性が上昇したが、CYP2C19ではHNF4αによる転写活性の上昇は認められなかった。また、2つのDR1それぞれに変異を導入し、転写活性を測定したところ、CYP2C9ではいずれの変異導入によってもHNF4αによる転写活性化が消失した。さらに、HNF4αがin vivoにおいてCYP2C9およびCYP2C19promoter上に結合しているかどうかを明らかにするために、ヒト肝組織を用いてChIP assayをおこなった。その結果、in vivoではHNF4αはCYP2C9promoter上にのみ結合していることが示された。これらの結果から、HNF4αがヒト成人肝におけるCYP2C9およびCYP2C19の発現量の差異を規定する重要な因子の1つである可能性が示唆された。
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