腎癌の治療に対しては外科療法が一般的であるが、外科療法の選択が行えない場合の奏功率は必ずしも満足できるものではなく、原因の一つに腎癌がほとんどの抗癌剤に対して抵抗性を示すことが挙げられる。一部の癌細胞では、血管内皮増殖因子(VEGF)が高発現していること、抗癌剤耐性に細胞内カルシウム結合タンパク質sorcinが関与することなどを報告しており、抗癌剤の有効性を検討する上でも腎癌におけるこれら遺伝子の発現量に関する情報は必須となる。今年度は、標的遺伝子をVEGFとsorcinとし、腎癌患者における両遺伝子の発現量解析を行った。対象は同意の得られた腎癌患者29名とした。各患者におけるVEGFおよびsorcinの遺伝子発現量はリアルタイムPCR法を用いて測定した。その結果、βアクチンで補正したVEGFの相対的遺伝子発現量の平均値は、非癌部と比較して癌部において50倍以上の発現量上昇を認めた。一方、sorcin遺伝子については癌部において低い傾向が認められた。両者の関連性について検討する目的で、腎癌細胞株を用いてsorcin発現抑制系を構築しVEGF発現量を測定したところ、sorcin knock-down細胞ではVEGF発現量の上昇を認めた。本結果は、腎癌においてsorcinが細胞増殖に関与すること、その際VEGF発現量調節が関与することを示唆しており、両遺伝子の発現調節機構の解明は腎癌の増殖抑制を目的とした抗癌剤を開発する上で重要であることが示唆された。
|