アミノグリコシド系抗生物質(AGs)の腎毒性は、AGsが腎に高濃度かつ選択的に移行するためであり、我々はこれまでにAGsの腎移行にメガリンと呼ばれるエンドサイトーシスレセプターが関与することを示してきた。さらに、チトクロームCなどのメガリンリガンドや塩基性ペプチドであるN-WASP181-200(NISHTKEKKKGKAKKKRLTK)およびその改変ペプチドを併用投与することによって、AGsの腎移行を低下させることができることを見い出した。しかし、塩基性ペプチドのAGs腎移行阻害効果はin vitroでの結果からの予想に比べ顕著に低いものであった。そこで本研究では、塩基性ペプチドN-WASP181-200の体内動態を制御し、標的部位である腎尿細管管腔への指向性を高めるための手法を開発することを目的として研究を開始した。 まず、塩基性ベプチドN-WASP181-200の組織細胞における輸送機構について明確にするため、培養腎上皮細胞OKにおけるN-WASP181-200の細胞内移行特性を解析した。その輸送解析を行うに際し、N-WASP181-200のアミノ基末端をrhodamine Bで標識したRho-N-WASP181-200を合成した。Rho-N-WASP181-200の細胞内取り込みは、温度依存性を示すとともに、取り込みに飽和性が観察された。また、その取り込みはエネルギー依存性を示した。さらに、AGsであるゲンタマイシンの共存によって濃度依存的にその取り込みが阻害された。従って、塩基性ペプチドN-WASP181-200の細胞内移行には、何らかの輸送担体が関与するとともに、少なくとも一部AGsと共通した輸送機構が関与していることが明らかになった。 上記の培養細胞解析に加え、塩基性ペプチドの血漿中からの消失に関与する因子の解明をすることを目的として、塩基性ペプチドと血清アルブミンとの相互作用についての解析を進めている。
|