様々な生理活性作用が知られる多価不飽和脂肪酸を食品や製剤添加物として消化管に適用すると、細胞膜マイクロドメインの形成変化が起こり、それによって薬物吸収性などの膜機能が変化するとの仮説を立て、モデル膜や培養細胞を用いた検討を行った。まず、組成の異なるモデル膜に各種脂肪酸を適用し、界面活性剤不溶性膜画分量や蛍光異方性などの測定を行った。その結果、ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)の多価不飽和脂肪酸は、コレステロールを含まない膜に対しては非常に強力な膜流動化作用を示すものの、コレステロールを含む膜に対しては、その作用が著しく減弱することが明らかになった。さらに、オレイン酸のような不飽和脂肪酸と作用を比較したところ、両者の膜への作用様式は異なっていた。以上の結果から、多価不飽和脂肪酸がマイクロドメインの形成を促進させる可能性を見出した。すなわち、多価不飽和脂肪酸はコレステロールが豊富に含まれる膜領域(マイクロドメイン)には作用せず、膜に対して不均一に作用するため、結果として流動性の高い膜領域と低い膜領域の相分離を助長して、マイクロドメインの形成を促進する可能性が考えられる。続いて、この考察をもとに培養細胞(Caco-2)を用いて検討を行った。検討として、多価不飽和脂肪酸を適用した細胞から、界面活性剤不溶性膜画分と可溶性膜画分を分画し、それぞれのフラクションに含まれる膜タンパク量を評価した。なお、本研究では対象とする膜タンパクに、マイクロドメインへの分布が報告されているP糖タンパク(P-gp)を選択した。その結果、多価不飽和脂肪酸を適用しても、各フラクションのP-gp量に目立った変化は認められなかった。したがって、現在までのところ、モデル膜での結果を支持するような結果は得られていない。今後は条件を変えてさらに検討を進める予定である。
|