研究概要 |
TGFβと高Caの増殖抑制作用を伝達する経路としては、これまでそれぞれSmadとNFATを介するものが報告されています。ヒト表皮角化細胞で検討したところ、これらの固有の経路に加えて、S100C/A11が同時に活性化されることが必要であるとの結果を得ました(JCB,163:825-835,2003;JCB,164:979-984,2004)。即ち、TGFβと高Caによる刺激により、S100C/A11-SmadあるいはS100C/A11-NFATの各両経路からの情報が核で収束・統合されて増殖抑制につながるのです。しかしながら、このような情報の収束・統合を必要とする理由およびその詳細な機構についてはよくわかっていませんでした。そこで、今回、p21(WAF1/CIP1)promoter上Sp1結合部位をマスクし不活化するタンパク質のスクリーニングを行いました。その結果、KLF16転写因子がSp1結合部位を不活化していることが明らかとなったのです。アデノウィルスを用いたKLF16過剰発現、KLF16 siRNAによる発現抑制とクロマチン免疫沈降法の組み合わせにより、KLF16の存在はSp1転写因子単独でのp21(WAF1/CIP1)promoterへの結合を阻害すること、しかし、Sp1/Smad3あるいはSp1/NFAT1複合体形成が起こるとSp1転写因子のpromoterへの親和性が高まり、KLF16転写因子を駆逐してpromoterを活性化し得ることがわかりました。以上、代表的な2つの増殖抑制因子が共に分岐し収束する信号伝達系をもつことが初めて明らかになりました。
|