高血圧などの循環器疾患の発症や悪化に、マグネシウム不足が関連すると考えられている。しかし、どのようなメカニズムでマグネシウムホメオスタシスが異常になるのかは不明である。近年、腎尿細管に発現するパラセリン-1がマグネシウムの再吸収に関与すると示唆されている。我々は、パラセリン-1を培養細胞に発現させ、タイトジャンクションに分布してマグネシウム輸送が増加することを報告している。本研究では、パラセリン-1の細胞内分布調節機構について検討した。また、高血圧モデルラットを用いて、パラセリン-1の発現と機能変化を解析した。 ラットの腎臓からパラセリン-1 cDNAを調製し、pTRE2-hygベクターにサブクローニングした。このベクターをTet-OFF MDCK細胞にトランスフェクトし、ドキシサイクリン誘導性パラセリン-1安定発現細胞を樹立した。パラセリン-1はZO-1と結合し、タイトジャンクションに局在することを確認した。プロテインキナーゼA(PKA)阻害剤のH-89で処理すると、パラセリン-1はタイトジャンクションから解離し、リソソームへと移行した。パラセリン・1のリン酸化部位を検討したところ、217-SerがPKAによってリン酸化されることが明らかになった。パラセリン-1が脱リン酸化した細胞では、マグネシウムの輸送が低下した。次に、高血圧とマグネシウム再吸収低下との関連について検討した。高血圧ラットではパラセリン-1の発現量は変化しないが、リン酸化量が低下することを発見した。また、高血圧ラットでは腎臓のcAMP含量が低下していた。以上のことから、PKAによってリン酸化されたパラセリン-1はタイトジャンクションに分布し、マグネシウムの輸送を促進することができるが、cAMP濃度が低下して脱リン酸化されると、マグネシウムの輸送が低下することが明らかになった。食塩感受性高血圧ラットでは、腎臓のcAMP含量が低下し、パラセリン-1が脱リン酸化されるため、マグネシウム再吸収が低下すると示唆された。パラセリン-1の脱リン酸化を抑制する薬剤の開発により、マグネシウム不足と高血圧を改善することができると期待される。
|