研究概要 |
パラセリン-1は腎臓のヘンレ上行脚に特異的に発現しており,傍細胞マグネシウム輸送を担うと示唆され大変注目されているタンパク質であるが,その発現と機能の調節機構は解明されていない。今年度は,変異型パラセリン-1の機能解析と,ホルモンによる発現調節機構について検討した。 パラセリン-1に蛍光タンパク質EGFPを付加して線維芽細胞に発現させたところ,細胞の隣接部位に発現せず,細胞質に分布した。そのため傍細胞マグネシウム輸送を観察することができなかった。現在,別のタグタンパク質の付加,およびクローディン-3発現細胞で,パラセリン-1の発現細胞を作成中である。さらに,変異型パラセリン-1の発現細胞を構築中である。 ヒト胎児由来のHEK293細胞にパラセリン-1は恒常的に発現する。マグネシウム再吸収の調節に関与すると報告されているエストラジオール,ビタミンD,甲状腺ホルモンのパラセリン-1発現に対する影響をリアルタイムPCR法で検討した。予想に反して,これらのホルモン刺激によりパラセリン-1の発現量は低下した。次に、パラセリン-1のプロモーター活性を測定した。プロモーター領域約4,000bpの遺伝子をクローニングし,ルシフェラーゼアッセイを行ったところ,-2,162/-732領域に転写活性が見られた。今後,この領域のプロモーター活性に対する各種ホルモンの影響を検討する必要がある。 腎尿細管におけるマグネシウム輸送は一方向性であるが,その原因は不明であった。トランスウェルを用いたマグネシウム輸送実験で,マグネシウムは管腔側から血管側へ輸送されたが,血管側に高濃度の二価カチオンが存在するとマグネシウムの輸送が阻害された。血管側に発現する多価カチオン感受性受容体の活性化は,cAMP濃度を低下させる。そこでcAMP供与剤を処理したところ,二価カチオン存在下でもマグネシウムが輸送された。このことから,血管側にマグネシウムが蓄積すると,cAMP濃度の低下を介してパラセリン-1の発現が低下するため,マグネシウムの逆輸送は起こらないと示唆された。
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