起立性ストレスを負荷すると、内臓や筋または皮膚などの血管は収縮し、血圧の維持に貢献する。暑熱環境下では、深部体温の上昇によって皮膚血管が拡張する。深部体温がかなり上昇した場合、心拍出量の約50%が末梢皮膚循環へ分配されることが報告されている。そのため、暑熱環境下における起立性ストレス時の血圧維持に対して、皮膚血管の収縮は非常に大きな役割を担っていることが考えられる。先行研究によって、暑熱環境下における皮膚血管収縮反応には、皮膚血管拡張神経活動の低下と皮膚血管収縮神経活動の亢進の両方が関与していることが報告されている。しかし、後者のメカニズムは、減弱されている可能性が示唆されている。 本研究の目的は、暑熱環境下における皮膚血管収縮反応の減弱メカニズムを明らかにすることである。被験者は健康な若年男性または女性、約10名を対象とする。実験1では、局所加温によって皮膚血管を拡張させ、実験2では、血管拡張性物質を皮内マイクロダイアリシスより投与する。 実験1:局所温度制御装置によって、皮膚温を40℃にコントロールし、1つのマイクロダイアリシスプローブにはリンゲル液を、もう1つにはL-NAMEと血管拡張物質であるアデノシンを投与する。血流量が安定した後、ノルエピネフリンによる用量作用テストを行う。 実験2:一酸化窒素ドナーであるニトロプルシッドをマイクロダイアリシスプローブより、別のもう1つのプローブよりニトロプルシッドとL-NAMEを、さらに別のプローブよりアデノシンを連続的に投与する。血流量が安定した後、ノルエピネフリンによる用量作用テストを行う。 実験1では、局所加温にともなうNO由来の皮膚血管拡張の個人差が大きく、L-NAMEによってNO由来の血管拡張を抑制した分をアデノシンで補うことを試みたが、皮膚血流量をクランプすることが困難であったために、途中で断念した。実験2では、アデノシンによる皮膚血管拡張レベルを基準としてニトロプルシッドの濃度を変化させたため、安定したベースラインが得られた。ノルエピネフリンによる用量曲線は、アデノシン投与側よりもニトロプルシッド側でノルエピネフリンの高濃度側へ移動した。
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