宇宙飛行ラットの帰還後の摂餌量と飲水量を解析したところ、飛行群の飲水量はコントロール群に比べて多く、尿の濃縮能が減弱していることが示された。また、水腎症様症状として極度の腎孟拡張が見られた宇宙飛行ラットの上部尿路に関して組織学的検索を行ったところ、飛行直後のフライト群では尿管の有意な拡張が見られ、尿が貯留していたものと考えられた。さらに、当該尿管でのAQP1、AQP3の免疫染色では、腎孟の拡張度が大きな個体において、AQP1発現の減弱とAQP3発現の増強が観察された。これは宇宙飛行が尿管における水の経上皮輸送に影響を与えたことを示唆している。すなわち、微小重力環境によって引き起こされた尿管での尿の貯留が経上皮輸送をも変化させた可能性が考えられ、興味深い結果といえる。さらにAQP4やENaC-alphaがラット尿管で発現していることを初めて示し、尿管における経上皮輸送そのものの理解にも貢献した。一方で、腎孟拡張の起きた腎臓ではc-kit発現の減少が見られた。ユビキタスペースメーカーと呼ばれるe-kit陽性細胞の発現低下は、腎臓から尿管にかけての尿輸送の統合が宇宙飛行によって影響を受けていたことを示唆するものである。このように、ラット生後発達期における微小重力環境曝露は上部尿路における尿の貯留を介して、腎孟拡張・尿輸送や尿管での経上皮輸送の変化として影響を現出させたのではないかと考えられた。これらの結果は一部発表し、一部は投稿中である。
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