本研究は腎不全進行におけるアルドステロンのミネラロコルチコイド受容体を介した作用の関与について検討することを目的として立案された。本年度ではまず培養細胞を用いた実験を行い、以下の実験結果を得た。1)従来ミネラロコルチコイド受容体は遠位尿細管や集合管にしか発現していないとされていたが、培養ラット腎糸球体メサンギウム細胞・ヒト近位尿細管細胞・ラット腎繊維芽細胞などの細胞質にも蛋白レベルで強く発現していること、2)アルドステロンはミネラロコルチコイド受容体を介して、数分以内でmitogen-activated protein(MAP)キナーゼを活性化させること、3)また、それらが尿細管での電解質の調節のみならず、各種細胞増殖や繊維化などに密接に関わっていること、4)アルドステロンはミネラロコルチコイド受容体を介してNADPHオキシダーゼを活性化し、酸化ストレスを亢進させること、またこれは細胞質に存在しているNADPHオキシダーゼのコンポーネントであるp47phoxとp67phoxが細胞膜ヘトランスロケーションすることによってを生じること、5)アルドステロンはミネラロコルチコイド受容体を介してRhoキナーゼを活性化し、ストレスファイバーの産生して細胞形態の変化に関与していること、6)実際にアルドステロン慢性投与によって生じる各種臓器障害は、Rhoキナーゼ阻害薬によって軽減されること、7)このようなアルドステロン/ミネラロコルチコイド受容体の作用の一部に、アンジオテンシンIIのAT_1受容体が関わっている、ことなどである。さらに、ミネラロコルチコイド受容体を介した種々の情報伝達機構が、DNA転写機構を介さない非ゲノム作用によって生じていることも証明した。このように、アルドステロンはミネラロコルチコイド受容体を介して様々な腎障害作用を生じうることが示唆された。
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