研究概要 |
本研究の目的は、糖尿病性血管内皮細胞障害のメカニズムを解明することにある。現在我が国では約690万人の糖尿病患者がいると考えられ特に40歳以上の国民ではその10人に1人が糖尿病であると言われている。このように国民病化した糖尿病は失明や尿毒症などの原因となるばかりでなく、冠動脈、脳動脈の動脈硬化症など大血管障害を引き起こす原因にもなる。糖尿病に関する研究は、創薬や新規治療法の重要なターゲットになると考えられることから、分子レベルあるいは生化学的側面からの基礎研究が国内外で盛んに行われている。一方で、血管(特に内皮細胞)障害という観点からの研究に関しては、いまだにはっきりした見解が得られておらず研究は進んでいないというのが現状である。本年度の研究成果から、こういったことに対する一因として、高血糖自体が内皮細胞に対して直接、悪影響があるという仮説自体に問題があるのではないかという結論に達しつつある。つまり、高血糖(グルコース)自体は血管内皮細胞に対してあまり影響せず、むしろグルコースの自動酸化及び分解産物より生じるGlyoxal,Methyl glyoxalといった終末糖化産物(Advanced glycation end-products:AGE)の中間体が内皮細胞の炎症・細胞死に対して大きく作用することを発見したのが、本年度の大きな成果の一つである。来年度も、Glyoxal,Methyl glyoxal(特に酸化ストレスの観点から)の血管内皮細胞に対する作用を炎症・細胞死シグナル伝達の面から追求し、更に細胞障害に対し影響があることが明らかになりつつあるP2Xレセプターの関与についても一層追求していく所存である。こうした実験アプローチは糖尿病性血管内皮障害に関する研究の新たな展開に寄与する可能性が十分に考えられるエキサイティングなテーマである可能性がある。
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