本研究の目的は、今や国民病化しつつある糖尿病及びその合併症の病態機序を解明し、新規治療法開発につなげることにある。とりわけ糖尿病患者は虚血性心疾患発症のリスクが高いが、その詳細はよく分かっていないので、糖尿病性血管障害に焦点をあてた。そしてこれまでに糖尿病性血管障害研究ではあまり注目されていなかった糖酸化物質に着目し、これらの血管内皮細胞に対する影響を、特に炎症性と細胞死シグナル伝達の観点から明らかにすべく取り組んできた。その結果、血管内皮細胞炎症性障害や細胞死に対しては、高血糖そのもの或いは終末糖化産物(グルコースと血中タンパクの非酵素的糖化反応の後期段階で生じる)よりもこれらの中間反応生成物であるグリオキサル、メチルグリオキサルといった糖酸化物質が大きく影響する(炎症性マーカー発現及び細胞死誘導)ことを見いだした。これらの糖酸化物質は、糖尿病合併症患者において、その血中濃度が上昇していることが知られていることから、糖尿病性血管内皮障害において重要な働きをしている可能性が示唆された。また、グリオキサルとメチルグリオキサルでは異なったシグナル伝達経路で内皮細胞を障害することが明らかとなり、今後このメカニズムを明らかにすることで、糖尿性血管障害メカニズムのさらなる解明に寄与するものと考えられる。更に、糖酸化物質による血管内皮障害に対して、抗糖尿病薬(PPARアゴニスト)並びに候補因子(アディポサイトカイン)に保護作用のある可能性が出てきたので、今後これらの研究成果が臨床応用の一助になる可能性が考えられた。
|