造血幹細胞は高い再生活性を持つため白血病の治療に用いられているが、生体外で造血幹細胞を、その再生活性を保持したまま維持する事は困難であり、特殊な分裂制御機構の存在が示唆される。これまでに申請者は、NFREDは造血幹細胞で発現し、その分裂に必須である事を明らかにしてきた。本研究では造血幹細胞の分裂機構におけるNFREDの機能を解析する目的で、(1)NFREDによる遺伝子発現の調節機構の解明、(2)NFREDの可視化、(3)NFREDによる造血幹細胞分裂の誘導を目標にした。 (1)β1インテグリン遺伝子のプロモーター内のNFRED応答領域の同定 β1インテグリン遺伝子のプロモーター領域の遺伝子断片をNFRED蛋白と混合し、NFREDと共沈したDNA断片の配列を解析したが、解析した50の配列中にコンセンサス配列は見出せなかった。従って、NFRED単独では特異的なDNA配列を認識していない事が示唆された。 (2)NFRED遺伝子のプロモーターの同定 NFRED遺伝子の上流1〜8kbpのゲノム断片をレポータープラスミドに組換えて、そのプロモーター活性を解析したところ、5kbpのゲノム領域に強い転写活性を検出した。この領域をGFP発現プラスミドに組換えた遺伝子を血液細胞に遺伝子導入した。'その結果、この組換えプラスミドのレポーター活性が、造血幹細胞以外の成熟血液でも検出され、幹細胞特異的な遺伝子発現にはさらに未同定の転写抑制領域が必要である事が示唆された。 (3)NFREDの強制発現が造血幹細胞の自己複製に及ぼす影響の解析 NFREDとこれを安定化させるNFRED-binding Protein 1を造血幹細胞にレトロウイルスベクター系で遺伝子導入したが、造血幹細胞の自己複製に有意な影響は観察されなかった。内因性のNFREDは大部分が細胞核に局在するが、強制発現させたNFREDのほとんどが細胞質に存在しており、この結果からNFREDを細胞核で機能させるためにはNFRED-binding protein 1以外の未同定の因子が必要であることが示唆された。
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