研究概要 |
3'インバート・チミジン基修飾によるsiRNAの安定化の検討 RNA interference (RNAi)は2本鎖RNAがその相補的な配列を持つ遺伝子の発現を特異的に抑制する現象である。最近、21塩基長の短鎖RNA (short interfering RNA, siRNA)が標的mRNAを分解し、遺伝子発現を阻害することが示された。RNAiによる遺伝子サイレンシングはその配列特異性と発現抑制効果が非常に高く、癌やエイズなどの難治性疾患に対する臨床応用が期待されている。しかし、RNAiを誘導するsiRNA分子は動物に投与した場合、非常に分解されやすい。siRNA分子自体を医薬品のシーズとして臨床応用するためには、生体内環境でsiRNA分子自身を安定化させることが必要不可欠である。そこでsiRNA分子をRNA分解酵素から保護する手段を検討した。siRNA分子の3'オーバーハングの1個のデオキシチミジン基をインバート・デオキシチミジン基(以下Inv.T基)に置換したInv.T修飾siRNA (Inv.T siRNA)を合成した。癌で過剰発現するミッドカイン(MK)を標的としたsiRNAについて検討を進め、下記に示す知見を得た。 (1)Inv.T siRNAは未修飾siRNAと同等のRNAi効果を示した(標的遺伝子MKの発現抑制率:Inv.T siRNA,88%;未修飾siRNA,87%;無処理を0%とする)。Inv.T基を導入しても、RNAi効果を問題なく誘導できた。siRNAのRISC蛋白への取り込みにおいて、Inv.T基は悪影響しなかった。 (2)細胞に投与すると、Inv.T siRNAは未修飾siRNAと同様の細胞内局在を示した。FITC蛍光標識体をInv.T siRNAと未修飾siRNAのそれぞれについて合成し、その局在を証明した。 (3)Inv.T修飾によって、siRNAの血清中での半減期が延長した(半減期:Inv.T siRNA,141分;未修飾siRNA,110分)。5%ウシ血清と混合後、経時的にサンプリングし、PAGE法で証明した。Inv.Tによる3'末端修飾はエキソヌクレアーゼに対しては絶大な耐性効果を示したが、エンドヌクレアーゼに対してはほとんど効果がなかった。現在、エンドヌクレアーゼに対する安定化法を検討中である。
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