以前我々が単離した二本鎖RNA結合タンパク質NF90の生体内機能はほとんどわかっていない。昨年度我々は、以前報告されたNF90によるIFN誘導遺伝子(ISGs)の発現促進は、特定の細胞株を用いた時のみみられ、一般的な現象ではないと結論づけた。本年度は、引き続きNF90の機能解析を行なうために、これまでに同定したNF90の相互作用因子に着目し、解析を行なった。そのひとつであるTRBPは、近年注目されているマイクロRNA (miRNA)の生合成経路において細胞質における前駆体miRNA (pre体)から成熟型miRNAの変換に関与することが知られている。また、pre体の核外輸送を担っているEXP-5はNF90と相互作用することがわかっている。さらに、核内においてmiRNA遺伝子の初期転写産物であるprimary-miRNA (pri体)をpre体に変換するDrosha/DGCR8を中心としたマイクロプロセッサーにNF90とそのパートナーであるNF45が含まれることが示されている。従って我々は、NF90/NF45がmiRNAの生合成経路において、pre体の産生と核外輸送に関与しているのではないかと作業仮説をたて、その検証を行なった。その結果、NF90/NF45はpre体の産生のためのDrosha/DGCR8によるpri体の切断活性を抑制することがわかった。また、これらの蛋白質を高発現した293T細胞ではpri体の蓄積が確認された。従って、NF90/NF45はpre体の産生において抑制的に働くことがわかった。pre体の核外輸送に関しては、薬剤刺激時に特定のmiRNAが発現するようなHela細胞株を作成中で、この細胞株を用いる事で、これらの蛋白質がpre体の核外輸送に関与するか否かを明らかにできると考えている。 (結語)本研究助成の支援で行なった研究により、NF90/NF45複合体がこれまで全く報告されていないmiRNA生合成経路の負の調節因子として機能する可能性を示唆することができた。
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