私共はβ-カテニンの蓄積を誘導するWnt-3aの作用を解析する過程で、Wnt-3aによってLRP6のエンドサイトーシスが誘導され、LRP6を含む小胞はカベオリンと局在が一致することを見出した。そこで、本研究はWntシグナル伝達経路におけるカベオリンを介するLRP6のエンドサイトーシスの制御機構を明らかにし、カベオラにおけるWnt依存性のβ-カテニン安定化の分子機構を明らかにすることを目的としている。今年度に得られた知見は以下のとおりである。 (1)RNAiによるカベオリンの発現抑制やNystatinによるカベオラの形成阻害によって、Wnt-3a依存性のLRP6のエンドサイトーシスとβ-カテニンの蓄積が抑制された。したがって、LRP6がカベオリンを介して細胞質に移行することがβ-カテニンの安定化に必要であることが示唆された。 (2)GSK-3βやCK1の蛋白質リン酸化酵素がWnt-3a依存性にLRP6の細胞質領域をリン酸化し、Axinがリン酸化されたLRP6と複合体を形成し、その結果、β-カテニンが安定化する可能性が考えられている。そこで、LRP6とAxinを共発現させ、両者の細胞内の局在やAxinとLRP6、β-カテニン、GSK-3βの複合体形成に対するカベオリンの影響を解析した。その結果、Wnt-3a刺激するとLRP6とAxinの両者はカベオリンや初期エンドソームのマーカーであるEEA1と局在が一致した。また、カベオリンはLRP6を介してAxinと複合体を形成し、Axinとβ-カテニンの結合を抑制した。したがって、Wnt-3aによってLRP6はAxinやカベオリンと複合体を形成し、カベオリンはAxinとβ-カテニンの結合を抑制することにより、β-カテニンの安定化を誘導することが示唆された。 以上の知見は、Wntシグナル伝達経路におけるβ-カテニンの安定化の分子機構の一端を明らかにしたものである。
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