研究概要 |
WNK1は、高カリウム血症と高血圧を呈する常染色体優性遺伝性疾患である偽性低アルドステロン症II型(PHA II)の原因遺伝子として同定されているプロテインキナーゼである。WNK1の機能を明らかにする目的で、WNK1をbaitとした酵母two-hybridスクリーニングおよびエピトープタグと質量分析を用いた相互作用解析を行い、WNK1結合因子としてSTE20様プロテインキナーゼSPAKを同定した。特異的抗体を用いた共沈実験により、内在性のSPAKおよびSPAKとキナーゼドメインが90%以上の相同性をもつOSR1は、哺乳類培養細胞内でWNK1と結合していることが認められた。また、WNK1はSPAKおよびOSR1のキナーゼドメインのC末側に存在する進化的に保存されたセリン残基をリン酸化した。しかも、このセリン残基をアスパラギン酸に置換したOSR1変異体は野生型に比較してキナーゼ活性が上昇していた。 一方、PHA II患者の治療にはサイアザイド系利尿薬が有効であり、このサイアザイドの標的は腎臓遠位尿細管に存在するNa^+-Cl^-共輸送体(NCC)であることが知られている。そこで我々は、SPAKならびにOSR1の標的分子としてNCCに着目した。NCCは、12回膜貫通型の構造をもつNa^+-(K^+)-Cl^-共輸送体ファミリーに属する分子であり、全身に存在するNKCC1や腎臓ヘンレループに存在するNKCC2などもこのファミリーに含まれる。NKCC1の活性調節は、N末端側細胞内領域のリン酸化/脱リン酸化により行われていることが知られていたが、このリン酸化部位を含む領域はNKCC2やNCCのN末領域と非常に高い相同性を示していた。培養細胞およびin vitroの実験からSPAK/OSR1がNKCC1,NKCC2およびNCCのN末制御領域を直接リン酸化することを明らかにした。 これらの知見から、生体内においてWNK1→SPAK/OSR1→共輸送体というシグナル伝達経路が存在し、この経路の制御異常がPHA II発症の一因である可能性を提唱することができた。
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