・研究の背景 動静脈血栓症、動脈硬化症などの血管障害性疾患の多くは、血管内皮傷害から始まる一連の血液凝固反応、炎症反応の慢性的な活性化を基盤とする。こうした血管内皮の障害を如何に早く的確に診断し対処するかは非常に重要な問題であり、新しい血管障害性疾患の診断・治療法の開発が期待されている。そのため、血管内皮細胞を標的とする抗血栓性の生理活性ペプチドが、動静脈血栓症に対する新規な診断法、治療法、さらには予防法の開発に有効であると考えている。 ・研究目的 上記の背景の下、本研究では、申請者が独自に開発したファージディスプレイ法を用いて、内皮傷害から血液凝固反応と炎症反応の活性化という一連の反応に影響を与える生理活性ペプチドを網羅的に選択し、血管内皮細胞上のペプチド親和性分子を探索する。さらに、この分子の血管内皮細胞における生理機能を解析し、血管障害性疾患の診断法・治療法・予防法の開発へ応用を進めることを目的とする。これまでの研究成果に基づき、中間報告を提出する。 ・研究成果 ランダムペプチドライブラリーの構築は、設計・構築手法に独自の工夫を取り入れ、200万種のペプチドからなるファージライブラリーの作製に成功した。このペプチドライブラリーから、ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)への結合性を指標にペプチドのスクリーニングを行い、複数のHUVECs結合性ペプチドを得た。このようにして得られたペプチドのうちH0321とT0201は、腫瘍壊死因子の分泌やアポトーシスの誘導活性を有していることを明らかにした。現在、これらペプチドのアミノ酸配列の解析や既存の蛋白質とのホモロジー探索などを行い、これらペプチドが結合するHUVECs側の受容体分子の同定を進めている。
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