本研究の目的は、ヒトナルコレプシーをはじめとする睡眠障害の新たな感受性・抵抗性遺伝子を見出すことである。昨年度までに約2万3000個のマイクロサテライトマーカーを用いたゲノムワイドな関連解析(1次・2次スクリーニング)を行ない、いくつかの候補マーカーを見出した。また、検出されたマイクロサテライトマーカーの周辺に、更に高密度にマイクロサテライトマーカーを設定して関連解析を行なったところ、候補領域を約70-100kb程度に絞り込むことができた。今年度は、70-100kbに絞り込んだ領域内に高密度に1塩基多型(single nucleotide polymorphisms : SNPs)を設定し、それらを用いた関連解析を行ない(5-10kb/1SNP程度の密度)、候補領域をさらに絞り込むことが目標であった。そしてその結果、1つの候補領域(NLC1-A)の絞込みに成功することができた。 SNPの選定は、データベース上にSNPとして登録されているものの内、16人の日本人のゲノムを用いた多型解析より日本人集団においても多型性を示すことが確認できたものを選定した。また、HapMapデータベースには45人の日本人のジェノタイプが登録されている。それらのデータを用いて、その領域の連鎖不平衡ブロックがどのように構成されているかをhaploviewソフトウェアを用いてあらかじめ確認し、候補マーカーを含むブロックとその周辺のいくつかのブロックを解析対象とした。その結果80SNPsを解析対象とし、それらのSNPsを用いた関連解析を行った(患者群190名、対照群190名)。関連解析の結果、高密度に設定したマイクロサテライトマーカーを用いた解析よりナルコレプシーとの強い関連が見出されたマーカー(NA3.L)近隣8SNPsが有意差に至り、その中の最も近傍の2SNPs(SNP名:C4、C7)ではNA3.Lと同様に強い関連を示した(p<0.002)。連鎖不平衡解析をおこなったところ、これら3つの多型のナルコレプシーとの強い関連を示したアリルは、強い連鎖不平衡状態であることがわかった。 この領域には既知の遺伝子は存在しないが、複数のESTやmRNAにサポートされる測遺伝子が3つ存在する。これらの予測遺伝子のプロモーター領域(上流2kb)、エクソン領域を対象として多型解析を行ったところ、26個の多型が存在したが、C4、C7、NA3.Lよりも強い関連を示す多型は観察されなかった。以上のことより、候補領域NLC1-Aにおいてはこれら3つの多型がナルコレプシー発症・病態に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。
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