研究概要 |
肝線維嚢胞性疾患の代表である先天性肝線維症+カロリ病における肝線維化機序を解明する目的で、そのモデル動物として確立されたpolycystic kidney(PCK)ラットを用い、特に胆管上皮細胞に着目して検討を行った.本年度は、胆管上皮細胞が間葉系細胞へと形質転換(epithelial to mesenchymal transition, EMT)しうる可能性、およびこの胆管細胞のEMTが進行性の肝線維化に関与しうるか否かを検証した.1型コラーゲンゲル上で培養したPCKラットの培養胆管上皮細胞をTGF-β1(EMT誘導因子)で刺激すると、間葉系マーカー(vimentin)と細胞外マトリックス(fibronectin、collagen)の発現が著明に亢進した.しかし、上皮系マーカー(CK19、E-cadherin)の発現低下はみられなかった.次いで、PCKラット胆管細胞を基底膜構成成分である4型コラーゲン上で培養し、これをTGF-β1で刺激したところ、胆管上皮マーカーであるCK19の発現は有意に減少した.しかし、E-cadherinの発現に変化はなく、α-SMA(筋線維芽細胞マーカー)の発現誘導も認めなかった.さらに、TGF-β1刺激前後でEMTに特徴的な細胞形態の変化(epithelioidからfibloblastoidな細胞への形態変化)はみられず、タイトジャンクション蛋白(zonula occludens-1)の発現も保たれていた.以上の結果から、PCKラットの胆管細胞はTGF-β1により脱分化を起こし、間葉系細胞の性質を獲得することで、肝線維化に関与している可能性が示された.この胆管上皮細胞の性質の変化は筋線維芽細胞への分化ではなく、EMTとは異なる現象と考えられた.
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