本年度は以下の3つの点に関して研究を行った。 ・自己免疫性膵炎およびIgG4関連硬化性胆管炎の病変局所におけるウイルス遺伝子の検出 前年度に引き続き、10例の組織切片から抽出したDNAを用いて、ウイルス遺伝子の検出を試みた。HHV-5、HHV-6、HHV-8の特異的プライマーを用いて、nested PCRによるウイルス遺伝子の検出を試みたが、いずれの症例からもウイルス遺伝子は検出されなかった。 ・自己免疫性膵炎およびIgG4関連硬化性胆管炎の病変局所におけるサイトカイン産生の検討 前年度の研究で、自己免疫性膵炎とIgG4関連硬化性胆管炎は多数の制御性T細胞(Tregs)の浸潤を特徴としていることが明らかとなった。本年度は、凍結標本から抽出したRNAを用いて、局所で産生されるサイトカインの発現をreal-time PCRを用いて定量的に解析した。IgG4関連疾患ではTregsから産生されるIL-10、TGF-βの発現が、他の自己免疫性疾患に比して有意に亢進していることが明らかとなった。また、Th1サイトカインであるIFN-γと、Th2サイトカインであるIL-4・IL-5・IL-13の発現を比較すると、他の自己免疫性疾患に比して、Th2サイトカインの産生が亢進していることが明らかとなった。凍結標本を用いてin situ hybridizationを行ったところ、自己免疫性膵炎やIgG4関連硬化性胆管炎では、IL-4やIL-10陽性リンパ球の多数の浸潤が認められた。これまで、IgG4関連疾患はTh1有意の病態と考えられていたが、病変局所のサイトカイン発現の結果からは、Th2優位の免疫応答が生じていると考えられた。Th2有意の免疫応答とTregsの多数の浸潤はアレルギー疾患で見られる免疫応答と類似しており、何らかの抗原に対する過敏反応がIgG4関連疾患の病態に関わっている可能性を示唆する結果と考えている。 ・IgG4に着目した肝炎症性偽腫瘍の分類 多数例のIgG4関連疾患の病理組織像を解析している過程で、肝の炎症性偽腫瘍は2群に分類でき、その一方がIgG4関連疾患で、他方はIgG4関連疾患とは異なることが明らかとなった。病理学的差異だけでなく、性別・初発症状・病変の局在・病変の分布が異なっており、異なる病態と考えられる。つまり、肝炎症性偽腫瘍とされていた病変はheterogeneousな疾患単位で、その一群が自己免疫性膵炎と類似の病態であることが明らかとなった。
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