甲状腺乳頭癌は濾胞上皮由来の腫瘍で、甲状腺原発の全悪性腫瘍の約90%を占める組織型の腫瘍である。RET遺伝子再構成は甲状腺乳頭癌における遺伝子異常として最も頻度が高く、普遍的なものである。RET遺伝子再構成(RET/PTC)は染色体の転座もしくは逆位により生じ、その結果fusion proteinが細胞質内でリガンドとの結合することなく持続的に活性化されることにより、ras-MAP kinase系を介して細胞を増殖させると考えられている。 本研究では、甲状腺乳頭癌からの塗抹細胞診標本を用いて、RET/PTC1を構成するRET遺伝子とそのpartner geneであるH4遺伝子に対するDNAプローベを設定し、fluorescence in situ hybridization (FISH)により、その相互関係を解明しようと試みた。RET遺伝子に対するプローベを用いたFISHでは、特異的なシグナルを検出することができた(再現性あり)。しかし、H4遺伝子に対する染色では、一時良好な結果を得たが、再現性がなかった(原因不明)。RET遺伝子に対するFISHではDNAプローベ設定を、遺伝子再構成が起こるとシグナルが分裂する様に設定したため、RET遺伝子再構成のある細胞ではシグナルが3個、再構成のない細胞ではシグナルが2個検出された。また、FISHと甲状腺濾胞上皮のマーカーであるTTF-1蛍光免疫染色との2重染色により、同じ腫瘍から得られた乳頭癌細胞でも、RET遺伝子再構成がある細胞とない細胞が混在することを証明した。遺伝子再構成のある癌細胞の割合は少なく、RT-PCR法によりRET/PTC陽性と検出された症例でも、FISH法では少数の癌細胞のみに再構成が検出された。この結果から、RET遺伝子再構成は乳頭癌発生の初期の段階に関与している可能性が示唆された。以上の内容を論文作成中である。
|