これまでの我々および他の研究グループの培養細胞を用いた研究により、MAGE-D1/Dlxin1はいくつかのアポトーシス関連分子と相互作用し、アポトーシスに促進的に働くことが示唆されている。生体内においても実際にアポトーシスに関与しているかどうかを探るために、発生期における神経細胞のアポトーシスについて検討した。具体的には胎生日数を合わせて胎仔を採取し、TUNEL法などで野生型マウスとMAGE-D1欠損マウスの脳内のアポトーシスの程度に差があるかどうかを調べた。現在、差の明らかな時期、部位を検索中である。 MAGE-D1欠損マウスでは、神経系における様々な分子の発現が変化していることが予想される。これまでにマイクロアレイ解析により変化を示すいくつかの分子の候補を得ているが、今年度は定量PCRやウェスタン解析により、週令、性別、部位を含めて詳細に検討した。 MAGE-D1欠損による微細な解剖学的異常、分子変化により、高次脳機能に変化が生じていることが予想される。これまでの研究の過程で、MAGE-D1欠損マウスには軽度の異常反射が観察されているが、実際に行動異常、神経学的異常があるかどうかをスクリーニングする目的で、学習、行動の試験を実施した。現在その結果を解析中である。 ヒトの疾患とMAGE-D1との関係はこれまでに報告はない。MAGE-D1は正常組織においても広く発現している分子であるが、癌抗原として腫瘍化に伴い発現が上昇する分子と相同ドメインをもつことから、腫瘍化により発現が上昇している可能性が示唆される。そこでいくつかのヒトの腫瘍についてMAGE-D1の発現の検討を行った。病理組織検体のパラフィンブロックにて免疫染色を行った結果、様々な間葉系腫瘍でMAGE-D1の発現がみられた。特に神経膠腫においては悪性度が上がるとMAGE-D1の発現が上昇する傾向がみられた。
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