これまでの我々および他の研究グループの培養細胞を用いた研究により、MAGE-D1/Dlxin1はいくつかのアポトーシス関連分子と相互作用し、アポトーシスに促進的に働くことが示唆されている。生体内においても実際にアポトーシスに関与しているかどうかを探るために、発生期における神経細胞のアポトーシスについて検討した。具体的には胎生日数を合わせて胎仔を採取し、TUNEL法などで野生型マウスとMAGE-D1欠損マウスの脳内のアポトーシスの程度に差があるかどうかを調べた。その結果、胎生13日の三叉神経節において、野生型マウスと比較してMAGE-D1欠損マウスの神経細胞のアポトーシスが軽度減少していた。 MAGE-D1欠損による上記の微細な解剖学的異常、分子変化により、高次脳機能に変化が生じていることが予想される。これまでの研究の過程で、MAGE-D1欠損マウスには軽度の異常反射が観察されているが、実際に行動異常、神経学的異常があるかどうかを判定する目的で、学習、運動、行動の試験を実施した。その結果、MAGE-D1欠損マウスは野生型マウスと比較して学習、運動機能に明らかな差はみられなかったが、行動試験において、軽度の抑うつ傾向、意欲の低下と解釈される成績を得た。 長期飼育していたMAGE-D1欠損マウスおよび野生型を解剖した結果、一部の個体にそれぞれ肺、消化管、乳腺などのさまざまな臓器の腫瘍の形成がみられ、その頻度は野生型マウスよりMAGE-D1欠損マウスの方が高かった。 以上の結果から、MAGE-D1欠損マウスが軽微なうつ病、自閉症などの精神神経疾患のモデルマウスとなりうること、MAGE-D1が腫瘍抑制に関与する可能性が示唆される。現在、これらの成果について論文準備中である。
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