研究概要 |
特発性線維硬化性疾患の病因を解明するため,最低4年間の経過観察もしくは剖検による全身検索が可能であった6症例を研究対象に選んだ. 6症例から得られた8個の標本が病理学組織学的検索,免疫組織化学的検索,Epstein-Barr virus-encoded small RNAのii-situ hybridization(EBER-ISH),PCRによる免疫グロブリン重鎖遺伝子再構成(IgH)とT細胞受容体β鎖遣伝子再構成(TCR-β)の検索に使用された. 6症例の全てが後腹膜線維症を有しており,3症例は後腹膜以外にも線維硬化性病変を有していた.6症例いずれも全身症状を呈し,異常蛋白血症は5症例に,リンパ節症は4症例にみられた.4症例でガリウムシンチグラフィーが行われ,そのうち2症例で病変部に集積像が認められた.2症例で自己抗体が陽性であったが,明白な膠原病としての臨床病理学的証拠は認めなかった.いずれの症例にも甲状腺炎や動脈瘤,高度の粥状硬化症は見られなかった.1症例のみ後腹膜線維症の診断後,49ヶ月後にB細胞リンパ腫を発症した. 病理組織学的検索では,8個いずれの標本も密な線維性結合組織の増生とともに,polymorphousな炎症細胞浸潤が種々の程度に認められた.免疫組織化学的検索では悪性リンパ腫の所見はなかったが,5個の標本でbcl-10の核内発現を呈する小型リンパ球が少数認められた.EBER-ISHの結果は全て陰性であった.IgHは全ての標本でクローナリティを示したが,TCR-βはいずれの標本もクローナリティを示さなかった. 以上,全例で免疫血液学的異常性が確認され,かつ病巣の線維化とIgHのクローナリティとが同時に見られたことから,特発性線維硬化性疾患の病因にB細胞クローンの拡大が深く関わっており,本疾患がlymphoid dyscrasiaの範疇の一部に属する可能性が示唆された.
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