研究概要 |
肝細胞癌の発癌メカニズムを解明することは予防医学的にも一次予防のための重要な意味を持つ。発癌メカニズムを明らかにするための基本的なアプローチの一つは初期癌病変の詳細な観察である。初期高分化肝細胞癌は、進行肝細胞癌と異なり、線維性被膜を有さず、周囲非癌肝細胞に対して置換性発育を呈するなどの特徴を有する。また、その内部に門脈域が残存することが知られている。この初期高分化肝細胞癌について、研究代表者らは初期高分化肝細胞癌で前癌病変を混在する癌としない癌に分類し、混在する癌は腫瘍径が大きく、硬変肝に多く(Taguchi,2002)、その背景の肝細胞のクローナリティーが多彩であることを示す組織像を有する肝臓に多く見られる(Taguchi,2005)ことを報告してきた。両者は発癌の背景とその機序が異なることが予想される。前癌病変が混在する癌は壊死炎症反応によって出現する種々の肝細胞クローンの中から前癌病変が発生し、発癌に結びつくと考えられるが、混在しない癌についての詳細は不明である。その機序の候補の一つに肝前駆細胞の癌化があげられる。これは小葉間胆管と肝細胞に介在する門脈域内のヘリング管に存在するとされる。本研究では肝前駆細胞の発癌への関与を明らかにするのが目的である。肝前駆細胞マーカーとなりうる蛋白群であるKIT、CK19などの同時性同所性発現のみでは骨髄由来の細胞との区別が困難であった。そのため、ヘリング管を共焦点顕微鏡で描出し、そこでのマーカー蛋白群の発現を観察できる系を確立している最中である。更に病的肝の検討によりマーカー蛋白群の発現量比も肝前駆細胞の同定に必要と考えられたため、それらマーカー蛋白群の発現量を画像解析ソフトで定量する系を確立中である。確立後、慢性肝炎、硬変肝、初期高分化肝細胞癌での肝前駆細胞の変化を細胞周期関連蛋白の関与も含め詳細に観察していく予定である。
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